* 船橋ロッキーの“お正月コンペ”は、今年で3年目。すでに恒例になってしまった。こんな時期にコンペというのは、どう考えても大変なこと。スタッフの方々の私生活だの何だのと言う概念はどこに行ってしまったのだろうか?などと考えてしまう。まあ正月というのは極端にしても、もともと程度の差こそあれ日本のコンペは、そんなものを度外視しないと成り立たないものが多いのだが。
* 今年は3日に昨年夏の第1回に続く“ジュニアBセッション”を開催。そして4日が“大人の大会”だった。さてここでお断りをしておかねばならない。この大会は“B-Session2008”と銘打っているけれど、今年はこの後に続く“B-Session”は予定されていないのだ。“B-Session”は、かつてのジャパンツアーの当初がそうだったように、各地で独自に開催されていたボルダリングの大会をシリーズ化したものだ。したがって、主催者(主にクライミングジム)が大会を企画し、そしてそれを“B-Session”として開催すると申し出ないと成り立たない。この数年、数の多少の増減はあったにせよ、確実に何戦かは開催されていたものが、今年は名乗りをあげた大会が、この船橋ロッキー1戦のみだったのである。
* 今年はこれっきり、と言うことが大きく影響したのだろうか、今回の参加申込数はかつて無いものになった。何と男子は64名。女子の方は、相変わらず少々寂しい人数だが、それでも昨年よりは多少増えて14名だった。昨年のこの大会のレポートで「男女合わせて40〜50名が限界という気はする」と書いた。その昨年の男子参加者数は26。こぢんまりとしてはいるが、会場の広さを考えれば良い雰囲気の人数だった。それが一気に倍以上の参加者数である。募集要項の定員は35名程度だから、まさに想定外の応募者数だ。この人数を主催者スタッフが受け入れたのは、おそらくは「この1戦しかない」、ということで参加してきた選手を断るに忍びない、という心意気だろう(それとも、「こうなったらどうにでもなれ」とやけを起こしたか?)。
* さて大会のシステムは、今年もアメリカのボルダリングコンペの“センドフェスト”方式。選手の流れはIFSC予選と同じ「ベルトコンベアー」だが、各ホールドにポイントが設定され、各課題で保持した最高点ホールドのポイントを合計するシステムである。毎年多少の試行錯誤があり、2年前は全て“センドフェスト”、昨年は予選が“センドフェスト”、決勝はIFSCの決勝に近いもの、さらにスーパーファイナルはまた“センドフェスト”と言う複合システム。今年は、初心に戻ったと言うわけではないだろうが、全て“センドフェスト”だった。
* 選手数の多い今年は、“センドフェスト”のメリットが活きたかたちになった。完登とボーナスしかないIFSCでは、課題の難度の設定、特にボーナス位置の設定が適切でないと、大人数を振り分けるのは難しい。だが“センドフェスト”は、評価基準がリードに近いわけで、課題を難しめに設定して必要以上に完登が出ないようにしておけば、(中間に異常に難しいポイントさえなければ)それなりに順位がばらけてくれるのである。小さなジムのコンペでは、壁にもセッターの人数にも作業日数にも制限が多い。その中でレベルの高い選手を迎えてコンペをやるには、“センドフェスト”は有効なシステムと言えるだろう。
* ただ、完登も一定のポイントに換算されてしまうシステムであるため、完登が絶対的な価値を持つIFSCに慣れた感覚では意外なリザルトになることがある。今回の男子決勝はまさにそれだった。リザルトを見ていただければ分かるように、唯一人3課題中2課題を完登した保科宏太郎が、1課題のみの完登だった選手よりも下の4位。また1課題の完登もない瀬戸啓太が、1課題完登の宮保雄一、杉田雅俊よりも上位になっている。無論これは、評価基準の違いの結果であり、どちらが良いか、などということを簡単に判断することはできないが、ボルダー競技の特質を考えれば完登とそれ以外の配点にもっと差があっても良かったのではないかとは思う。
* さてこのロッキーの大会のもう一つの特徴は、本来が表彰台を狙うはずの茂垣敬太、渡辺数馬がスタッフに回っていることにあるが、今年は加えて女子の野口啓代もスタッフに回っている。選手にすれば彼らの抜けた分上位を狙えると言う、「おいしい」大会である。さらに男子は、主要選手は総エントリーの中で松島暁人は不参加、女子は女子で尾川智子が体調が悪くキャンセルと、結果予想が全く不可能なエントリーリストだった。
* その混戦を制したのは堀創。もともとリードでの活躍が印象にあったが、第2回ボルダリング・ジャパンカップ以来ボルダーも強いことを証明。昨年のB-Session年間ランクは3位、ジャパンカップも2年連続4位、そしてついに表彰台の中央に立った。2位は村岡達哉。こちらも第2回ボルダリングジャパンカップの優勝で一気に注目されたが、以後も安定して上位に入っている。そして3位が大山史洋。男子は1位=10代、2位20代、3位=30代となった(だから何なんだ)。
* 一方の女子は、若手の台頭。もともと参加者の年齢が全体に低いと言うのもあるが、決勝進出者のほとんどが10代(それも前半)。そして上位3名――優勝の小田桃花、2位の安田あとり、3位の尾上彩の3人(そして6位の飯田あづみも含めて)は、昨年夏のジュニアオリンピック、アンダーユースB女子の上位3位までと同じ顔ぶれである。上位3名が10代前半で占められた形だ。この3人のユース大会での実績は言うまでもない。加えて小田は昨年末の第3回ボルダリングジャパンカップで野口啓代に次いで2位、安田も同大会で決勝に残っている。尾上は昨年の日本選手権で優勝と、「大人の大会」でも素晴らしい成績を積み重ねている。
* 男子も無論、若い選手の活躍があるのだが、まだまだ20代以上の選手層がそれなりに厚く頭を押さえられている。それに対して女子は、どうしても選手層の薄さから若手の進出を許してしまう形になっている。もともと競技のフィジカルな特性は、体操競技のそれと共通するところがあり、若い選手が中心になっていくことは予想されたが、選手の年齢層の移行が急速に進んでいる。今の若手が今後もクライミングを続け、さらに新しい若い選手の目標として活躍してくれることを願う。
* おそらく主催者としては、参加者の多さにどうなることかと気をもんだ大会だったろう。会場の小ささはどうにもならず、特に男子予選は競技を終えた選手が、限られたギャラリースペースにどんどん入って来て後半はすし詰め状態。舞い散るチョークでギャラリーは白髪頭になるは、私も次の日まで喉がおかしかったりしたが(毎年マスクを用意していこうと反省しては忘れるのだ)、大会そのものは、無事に終了した。ロッキー代表の田村氏はじめスタッフの方々は、さぞほっとしていることだろう。
* 毎回何かと工夫のあるロッキーの大会だが、今回も決勝では選手以外から入場料を取っていた。1つには入場者数を押さえるためもあるのかと思うが、例えわずかでも経費の穴を埋めることができる。昨秋のワールドカップのような集客力は厳しいにしても、ある程度以上のレベルのコンペは、もう「金を取って見せる」ことが可能な段階に来ているのではないか。このあたりは、他の大会でも検討して良いだろう。
* さて先に述べたように、“B-Session 2008”はこれで終わりである。あるいは1戦しかない以上、この大会は“B-Session”とは言えないかも知れない。確かにジムにとってコンペは、イベントとしてそれなりの意味はあるものの、“B-Session”のように全国からレベルの高い選手を集めて、となると準備にせよ何にせよ負担は大きく、二の足を踏むのは理解できる。だがこうした大会が多くの若いクライマー、ボルダラーの良い目標となるのは事実だし、こうした大会を通して人を育てることもジムの仕事の1つではないだろうか。他のスポーツとは違い、ジム自らが大会を開いていかないと大会そのものが無いのが現状である。いたずらに華やかな大会である必要はない。各クライミングジムには、是非とも全国レベルの大会の企画をご検討いただき、来年はシリーズ戦の“B-Session 2009”が開催されることを祈りたい。
(Judge)