埼玉県 加須市 市民体育館 '06年12月23〜24日
昨年は神戸で開催されたボルダリング・ジャパンカップ。本年は埼玉県加須市での開催となった。現状ではボルダリングは競技に適した常設の施設が無く、仮設になってしまう。壁そのものはリードのそれに比べれば高さの無い分コストは低いとは言え、既存施設を利用するのに比べれば馬鹿にならない経費がかかるし、マットの問題もある。ボルダリング・ジャパンカップが始まったのには、それなりの事情があるのだが、この経費の問題は今後もついてまわる事になるだろう。2008年の大分国体から国体の競技種目にボルダーが入るわけだが、その競技施設を活用するような形での開催を考えていくしかないのだろうか。
本年はクリスマスイブが決勝という日程で、会場もそれに相応しい飾り付け。ブラッシング係の高校生はサンタクロースの衣装という遊び心の感じられる演出の大会だった。その一方で、用意された課題の方はかなり厳しいものとなった。女子予選もやや難しめではあったが、男子予選では何と、参加者の半数以上にあたる41名が一つのボーナスポイントも獲得できないという結果であった。これについてはチーフルートセッターをつとめた飯山健治が文書を発表している。この文書の内容は、飯山があまりに自虐的に一切の責任を自ら背負っている感が強い。確かに結果的に難しすぎたのは事実だが、そうしたさじ加減のミスは過去のリードの大会でもあったことだ(多くは今回とは逆に、予選が易しすぎて大量通過というケースではあったが)。
飯山の書いた中にあるように、ボルダリングのレベルの向上は目覚ましいものがある。競技の課題のさじ加減は難しくなるのは当然のこと。その実力を発揮できずに終わった参加者の方々には、まことに気の毒なことなのだが、今回の男子予選は“事故”のようなものと言ってよいだろう。セッターの選手の能力に対する読みが重要だが、例えば自然のボルダーでの実績と、競技会でのパフォーマンスは必ずしも一致しないし、その時の出来不出来もある。当日の会場の気温、湿度も関係する。ルートセッターの役割は重要で、セッターが大会の成否を決定するとは、これまでも言われてきたこと。「ミスは許されない」と言ってしまうのは簡単だが、完全を要求するのはあまりに酷な現状があるのだ。
さて大会2日目は、準決勝以降のラウンドについては課題の難度も適正で、順調に終了した。今年からの新ルールの方式による決勝では、果たしてどの程度の所要時間を要するものか、というのが運営側としては気になるところだったが、男女とも理論上のMAX(選手数×競技時間×課題数)をかなり下回っていた。必ずしもこうした結果になるというものではないが、5人、4課題、5分の場合で1時間半というのが一つの目安になりそうだ。大分国体のタイムテーブルを考える上でも、参考になるところではないだろうか。
男子優勝は、自然のボルダーでハード・プロブレムを数多く登っている滋賀の村岡達哉。B-Sesion2006の年間順位は14位にとどまるが、出場したのは第1戦のみでそれは4位入賞。今回の優勝も、フロックではない。以下は松島暁人、茂垣敬太と続き、4位に堀創。堀はリード大会での印象が強いが、ボルダーでも充分に力のあることを示した。
女子は昨年に続き野口啓代。野口はボルダリング・ジャパンカップ2連勝と同時に、本年度のリード、ボルダー双方のジャパンカップのタイトルを手中にした。内容的にも予選決勝ともに全完登で、他の選手から頭一つ抜けた印象だ。以下、尾川智子、萩原亜咲、高橋恵と続く。萩原、高橋はともに北海道。北海道は近年、施設の充実もあり、力のある選手が確実に育っているようだ。
最後に、一つの問題点を提起しておきたい。UIAA-ICCのルールでは、ボルダリングでは両手と、両足または片足のスターティングホールド(ポジション)を指定することになっている(5.1.10)。しかし最近では、ジャンピングスタート=地ジャンを防ぐために、両手両足すべてのスターティングホールドを指定するのが通例だ。シッティングスタートの場合は、これで全く問題ない。だが、スタンディングスタートの場合はどうか?
UIAA-ICCのルールにはアテンプトは「選手の体の全てが地面から離れることで開始」されるとしている(5.3.6)。だが同時に、先に示した5.1.10では、スターティングポジションとは「そこからアテンプトを開始する」ものとなっている。とすれば両手両足が指定されている場合、スターティングポジションに両手両足を置かなければ、アテンプトが開始できない、ということである。細かく言うとスタンディングスタートの場合、両手両足を置く前に体の全てが地面から離れていても、指定されたスターティングポジションに手足が置かれていない一瞬が存在してしまう。規定上は5.3.6が優先されるだろうから、これはすでにアテンプトを開始していると見るべきだが、アテンプトを開始した後に初めて、全てのスターティングポジション=ルール上のアテンプト開始ポジションに両手両足を置いた状態となるというのは、好ましいものとは思われない。
これはルール上の不備と見ることもできる。今後こうした場合をカバーできるものにルールが変わっていく必要はあるだろう。だがそれ以前に、ジャンピングスタートがありえない、もしくはそれに意味がない課題にまで、両足を指定する必要があるかは疑問だ。両手両足の全てを指定することに拘ると、不自然なスターティングポジションになることもある。現に今回も、見ていてそう感じられる課題があったのは事実だ。今後の課題だろう。
(山本 和幸:日山協クライミング常任委員)
撮影:飯山 健治