INTERNATIONAL CLIMBING COMPETITION Rules2005(以下 Rules)は、文字通りクライミング競技の国際大会のルールブックと思っていただいて差し支えない。クライミングの国際大会は、UIAA(UNION INTERNATINALE DES ASSOCIATIONS D'ALPINISME:国際山岳連盟)の中のICC(INTERNATIONAL COUNCIL FOR COMPETITION CLIMBING:国際競技クライミング評議会)と言う組織が統轄している。まあ、誰か金持ちが世界中の強いクライマーを集めて勝手にコンペを開いても別にかまわないのだが(X-GAMESなどはこの類になる)、一定の統一されたルールのもとで――そして良くも悪くも権威にもとづいて開かれる国際大会は、このUIAA-ICCの公認する大会と言うことになる。
このICCによるルールは、従来HANDBOOKと言う名称で出ていたのだが、'05年版からはRulesに改められた。改められたのはタイトルだけでなく、内容の全面的な見直しが行われている。もともとこのRulesは競技種目にリード(従来のディフィカルティ)だけだった時代に作られたものに、後からスピードやボルダーが加わった関係で、昨年版まではリードだけに関係した事柄が、一般規則の中にかなり入っている、などの構成上の問題点もあったし、明かな記述の誤りもかなりの数に上っていた。'05年版はそうした構成上の問題点が整理され、また直接競技運営に関係しない事項は他の文書に移されるなどして、かなりすっきりしたものに生まれかわっている。まだいくつか、意味不明の記述も残ってはいるが、それも追々解消されていくのだろう。
さてここでは、一般の選手やスタッフに関係の深い事項について、'05年版からの変更点をセクションごとに見ていこう。
用語の変更がいくつかある。1.4.1「ICC競技役員」の部分だが、従来のプレジデント・オブ・ジューリがジューリ・プレジデントと少し簡略された形に、またインターナショナル・フォアランナーがチーフ・ルートセッターに、カテゴリ・ジャッジがICCジャッジにと変わった。
インターナショナル・フォアランナーとチーフ・ルートセッターは、もともとは別の役割。チーフ・ルートセッターは、文字通りルートを設定する役割、フォアランナーは出来上がったルートが競技に使うのに適切であるかどうかを判断し認定する役割。従来も、兼任が可能であるとはされていたが、実際兼任でない大会の方が少ない(皆無?)と言う実情に合わせての改訂だと思われる。
カテゴリ・ジャッジは、ジャッジのとりまとめ役で、もともとは男子、女子のカテゴリごとに1名とされていたものが、近年の改訂で1名で可とされ、「カテゴリ」ジャッジという名称が適切とは言えなくなっていた。
それから従来はトランジットと言われていた登る前の最終待機場所の名称がコール・ゾーンとなっている。
これらは単純に名称が変わっただけで、あまり大きな影響はない。ただ実際に国際大会に出場する人は、頭に入れておいた方がいいだろう。
ここには、選手に関係した大きな変更が多数見られる。
まず3.1.1。何と言っても競技種目名の「ディフィカルティ」が「リード」になった。まあこれは、わかりやすくなっただけ、といえばそれまでだが。
次の変更は、従来バウンダリと呼ばれていた、クライミングウォールの中の使用禁止部分の規定だ(3.2.2)。「バウンダリ」と言う用語が消えて「デマーケイション」(demarcation)となった。これは日本語に訳せば「限定」がぴったりする。
従来のバウンダリは、ウォールの中で一切触ってはならない部分を表し、赤でマーキングするものとしていたが、デマーケイションの規定では従来のバウンダリに相当するものに加えて、触れても良いが使ってはならない部分や、ホールド、はりぼてを赤以外の色(推奨される色として黒が挙げられている)でマーキングして示せることになった。
※ 上の部分、「デマーケイション」(demarcation)が「デマクレーション」(demacration)となっていました。お詫びして訂正いたします。
これとほぼ同じ事は、国内のコンペでは従来も行われていたが、国際ルールの中で明文化されたわけだ。今後は赤でマーキングされたホールドなどは触っただけでストップ、黒などでマーキングされたものは、例えばフラッギングした足が触れるといったことは良いが、足をしっかりそこに置いたらだめ、となる。
次に、スターティング・オーダーのWEB上での発表の日程の変更がある(3.4.1)。これまでは、大会初日の7日前に作成されICCのWEBで発表だったが、これが4日前になった。同時にエントリーのキャンセルは従来10日前までに連絡しないと、参加費を払わされたのだが、4日前でOKになった。なおこうしたエントリーの取り消しは、原則としてそれぞれの国のフェデレーション――日本の場合は日山協を通しておこなうものなので注意。
アイソレーション関係の規定では、ふたつ。まずアイソレーションへの動物の持ち込み(連れ込み?)だが、ジューリ・プレジデントの許可があればOKとなった(3.5.2)。まあ、日本人はあまり関係ないかもしれないが。クワガタはOKがとれるかも(→信太)。
ついで喫煙規定。遅きに失した観があるが、アイソレーション内の禁煙が明記された(3.5.3)。同時に喫煙場所として、アイソレーションの入り口付近の外側が指定された。(→篠さん)
携帯電話その他のアイソレーションや競技エリアへの持ち込みの禁止は従来からもあったが、オブザベーション中、クライミング中のオーディオ機器(具体的にはウォークマン、i-PODの類)の使用が禁止となった(3.5.6)。
服装規定も変わった。これまでは競技中の選手の服装については、ズボン類に国旗もしくは国を表すマークをつけることが義務づけられていたが、上半身にナショナルチーム毎のユニフォームの着用が必要になった(3.8.2)。ユニフォームと言うと大げさだが、要は
この3点を満たしていれば良い。
日山協に連絡すればユニフォームの手配はしてくれるはずだが、一人しかその大会に出ないような場合で、間に合わない時は自分でこれらの要素を満たしたものを用意すればOK。例としては、色に赤と白が入っているTシャツに、JPNの3文字を市販のワッペンか何かでつければ大丈夫だろう。
服装に関連して、広告規定でも追加がある(3.8.3)。基本的には従来通りだが、上衣の袖への広告掲示が認められた。またタトゥーなど肌に直接描いたり貼ったりしたものについても、規定面積に含めるということが明記された。
それからワールドカップのポイントが、従来は種目毎の個人ポイントのみだったが、ことしから各国の選手団の全体としてのポイントが加わった。国別対抗戦という要素が加わったと言うことである。これはオリンピックを多分に意識してのことと思う。またリード、ボルダーの総合ポイントもカウントするようになった。ただこれらについては、記述が簡潔すぎる上にいまいちあいまいなところもあって、はっきりしない。来年の改訂でもう少し記述が加わるのではないかという気がする(あるいは消えてしまうか?)。
見落としがちな変更がある。4.10.2のアテンプトの終了の要件のg)である。従来からハンガー、クイックドローを使うこと(前者に足をかける、後者をつかむ)は禁止だったが、05年からボルトの使用も不可と断言されてしまった。確かに頭が円筒形のキャップスクリュータイプは、足で使うことは十分可能である。これまでOKだっただけに要注意となるポイントだ。
もう一つ、各ラウンドのクォータだが、上位ラウンドへの進出ライン上に同着のあった場合は、全員が通過となった(4.9.4)。ここ数年、徐々に甘くなってきたがついに、という感じである。これでフローティングクォータは死語となり、ジャッジはこの場合は何人通せるんだっけ、と頭を悩まさなくてすむのだが、同着がたくさんいたら別の意味で頭を悩ますことになる。
それ以外は、それほど大きな変更はない。クリップポイントの判断が難しいクィックドローについては、クリップポイントを指定できる、と言う昨年からの変更に、そのクイックドローとクリップの際に使用するホールドにマーキングすべし、と言うことが追加で規定されたくらいだろう。
他に比べると一番変更の少ない部分だが、それでも一つ、選手にとって大きな変更が含まれている。
5.3.2の規定で、オブザベーション中(ボルダリングでは、競技中にプロブレム前にいて登っていない時は全てオブザベーション)はスタートホールド以外のホールドに触ることは従来、違反行為としてイエローカードの対象だった。それが、壁の表面も含め、スタートホールド以外に触ること、ティックマークをつけることなどは全て(規定にある範囲でのクリーニングは除く)1アテンプトに数えることになった。
したがって、手の届くところにキーになるホールドがある場合、1アテンプトを捨ててそのホールドの感触を確認することが可能になったわけだ。
以上が、05年版の主要変更部分である。 スピードも大きな変更はあるが、日本人にはあまり関係ないし、各大会関係の規定は記述は変わっていても中身の変化はないので省略する。